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東京地方裁判所 昭和43年(借チ)6号 決定 1968年3月25日

申立人 山木茂

右代理人弁護士 田中裕

相手方 田中米治

参加人 田中ヤス

右両名代理人弁護士 今野勝彦

主文

申立人を賃貸人、相手方及び参加人を賃借人とする別紙(二)記載の土地賃貸借契約を、堅固な建物所有を目的とするものに変更し、その存続期間を昭和七二年九月一四日までと定める。相手方及び参加人は、申立人に対し各自金二二六万八〇〇〇円の支払いをせよ。

右借地契約の賃料を、この裁判確定の日の属する月の翌月から三、三平方米当り一ヵ月九〇円に改める。

理由

一、申立人の申立ての要旨は、「申立人(賃貸人)は相手方(借地人)に対し、昭和二二年九月一五日に、別紙(一)記載の土地(以下本件土地という)を、木造その他非堅固な建物所有の目的、昭和四二年九月一四日までの二〇年の期間という条件で賃貸したが、相手方は、申立人に無断で、昭和三〇年頃右土地の東側一角に、鉄筋コンクリートブロック造りスレート葺二階建工場一棟(以下甲建物という)建築面積一四七、五三平方米(四四、六三坪)を建築し、更に、昭和三五年に本件土地の西側一角に、鉄筋コンクリート造り陸屋根四階建事務所兼共同住宅一棟(以下乙建物という)建築面積七四、三一平方米(二二、四八坪)を参加人(相手方の妻)名義で建築した。申立人は右各建築工事につき異議を述べるとともに、右契約の目的を堅固の建物を所有するものに改めるよう相手方に申し入れていたが、昭和三五年乙建物が大体でき上った頃相手方と参加人からの希望で、本件借地契約の内容はそのままとし借地人に参加人も加入させ、本件借地契約を相手方と参加人(以下相手方と参加人両名をいうときは相手方らと略称する)を共同賃借人とするものに改めたので、その後は右両名に対し前記借地契約の目的を改めるよう申し入れをしている。然し、相手方らはそれに応じないので、本件借地契約の目的を堅固の建物を所有するものに改める旨の裁判を求めるため本申立てをした」というのである。

二、本事件で調べた資料によれば次の事実が認められる。

1  申立人は相手方に対し、昭和二二年九月一五日に、本件土地を、建物の種類及び構造の定めなく、期間昭和四二年九月一四日までの二〇年の約束で賃貸した。

2  相手方は昭和二三年三月頃、同地上の西側道路に面した部分にバラック建物を建て、そこで駄菓子店を営んでいたが、昭和二三年暮頃に本件土地東側に木造の工場を建て、その後昭和三〇年二月頃右工場を取り壊して、間もなくそこに甲建物を建築し、同年七月一九日受附で保存登記をなし、更に昭和三四年頃前記本件土地の西側道路寄りにあるバラック建物を取り壊して、昭和三五年頃その跡に乙建物を参加人(相手方の妻)名義で建築し、同年七月二九日受附で保存登記をなした。

3  申立人は、昭和三〇年頃約三ヶ月おき位に相手方へ賃料の集金に行っていたが、同年七月七日頃の集金の際、前記鉄筋コンクリートブロック造りの甲建物が出来上っているのをはじめて発見し、相手方に対し右建物の無断新築に異議を述べると共に借地契約の目的を堅固な建物所有に改めるよう促し、その後の集金の際にも再参そのような主張をくり返したが、相手方より応諾がないまま過ぎた。そして、昭和三四年一〇月一三日頃、申立人が相手方に集金に行った際に、こんどは相手方が本件土地の西側道路寄りに、従前あったバラック建物を取り壊し乙建物の基礎工事をしているのをはじめて発見したので、その建物の新築に対して異議を述べ、もし建築する必要があるとしたら借地契約の目的を堅固な建物所有に改めてからにするよう相手方に申し入れ、右乙建物の完成後も再参同様の申入れをしているが相手方はそれに応じない。

4  その後の昭和三五年七月一七日頃、参加人及び相手方の申入れにより、右乙建物の所有名義が参加人であったことから、申立人と相手方の本件土地に対する前記借地契約の借地人に参加人も加入させ、申立人を賃貸人・相手方及び参加人を共同賃借人とする契約(その余の借地条件は従前通り)に改め、その後は右相手方らに対し、借地契約の目的を堅固なものに改めるよう申入れた(なお申立人は昭和四一年に相手方に対し建物収去土地明渡の調停申立てをしているが昭和四二年九月一日に不調となっている)。そして、右借地契約は昭和四二年九月一五日法定更新され、現在は別紙(二)記載の内容となっている。

5  本件土地は、都電石原町三丁目停留所から約一二〇米南西の六米公道に面して所在し、現在準防火地域、準工業地域等の建築法規上の指定を受けており、その周囲は昭和二二年九月一五日の契約締結当時は戦後間もなくの頃であり人家も少なくほとんどいわゆるバラック造りで堅固建物の数も少なかったことがうかがわれるが、現在では表通りには既に堅固の建物もかなり多くなって来ており、今後本件土地周辺で新しく借地契約を締結するとすれば、ほとんどが堅固の建物所有を目的とするであろうと推測される状況にある。

以上の各事実に徴すれば、本件土地上には借地人たる相手方らにより現に堅固な建物が建築されてはいるけれども(本件の如き申立ては、堅固の建物の建築をする前にされるのが原則であるが、借地人が地主の承諾を得ることなく堅固の建物の建築をした場合においては地主は契約解除せずに、なお借地契約の目的を変更するよう申立て得るというべきである)、申立人と相手方ら間の借地契約は依然として非堅固の建物所有を目的とするものに変りなく、かつ借地契約期間も当初の存続期間に変更がない(従って、昭和四二年九月一五日に法定更新され昭和六二年九月一四日までになった)と認められ、しかも、右借地契約の目的を非堅固の建物所有から堅固の建物を所有するものに改めることが相当であるというべきである。従って、申立人と相手方ら間の借地契約を堅固の建物所有を目的とするものに改めるとともに、それに伴って存続期間が当然変更されることになるので、その点を明確にすることとして主文一項のとおり決定する。

三、そこで、次に当事者間の利益の衡平をはかるため、必要な附随の処分の要否について検討する。

(一)  まず財産上の給付についてみると、非堅固の建物所有の借地条件を堅固の建物所有の借地条件に改める旨の裁判の申立てが土地賃貸人からなされた場合に、借地人側では堅固の建物を築造する意志が全くないというようなときには、借地人からその変更の必要性があって申立てされた場合と区別し、裁判の際借地人より賃貸人に対し財産上の給付を命ずるのが相当でないかあるいは命ずるにしても比較的低率であって然るべきだと解する余地があると考えられるが、借地契約の目的が非堅固の建物所有なのにそれを改めることなく借地人が賃貸人に無断で堅固の建物を築造した結果、現に借地上には堅固の建物が存在するが借地契約の目的は改まっていない(黙示の変更もない)というようなときに、土地賃貸人から右契約を堅固の建物所有を目的とするものに改めるよう裁判を求めて来たというような場合においては(前認定の通り本事件はこれに当る)、財産上の給付額について前記のような特段の配慮をすることは不要であると考えられる。

ところで、本事件で調べた資料によれば、(イ)昭和二二年九月一五日に申立人が相手方に本件土地を賃貸して以来現在まで、相手方らより申立人に対し財産上の給付が全くなされていないこと(右借地契約締結の際に、相手方が周旋屋に総額八万二〇〇〇円の財産上の給付をした旨参加人は陳述しているが、仮にそれが事実であるとしても、その全部または一部が申立人に交付されたという事実は認めることができないし、また、右借地契約締結当時頃、申立人が本件土地の前借地人である中村某から同人のそれまでの滞納賃料三、三平方米当り四〇銭で六月分ほどを受領したことがうかがわれるけれども、それが、右相手方より周旋屋に支払ったという金銭の一部であると認定することも困難である)、(ロ)前認定の通り、相手方らは昭和三〇年と昭和三五年にいずれも堅固な建物であるところの甲建物と乙建物の二棟を建築し、以来二棟のうち、甲建物は工場として、乙建物は使用関係に若干の変動はあるにしても、一階は相手方らの事務所、倉庫等に二階三階の数室は貸室にする等それぞれ営業用に使用し収益を得て来ているものであること、(ハ)従前の賃料額についても、非堅固の建物所有の場合ならばその改訂の推移はほぼ妥当なものであると認められるが、右認定のように、現に二棟の堅固の建物を所有ししかも主として営業用に使用しているという事実に徴すると、右堅固な建物が建築された後の賃料額改訂の推移は低額であったといわざるを得ないこと、がそれぞれ認められ、右各事実を総合すれば、相手方らより申立人に対し相当な財産上の給付をなすよう命ずるのが相当であると認められる。

そして、前記本件土地の位置、環境等から考えて、その更地価格は鑑定委員会の指摘する通り三、三平方米当り二四万円が相当であると認められるが、共同賃借人たる相手方らより申立人に対してなすべき本事件における財産上の給付額としては、上記諸事実のほか本件における一切の事情を考慮し、右更地価格の一〇%に相当する二二六万八〇〇〇円が相当であると認める。

(二)  次に賃料についてみると、右にみたように借地契約の目的を堅固なものに改めるのに伴って相当の範囲で増額をする必要があると考えられるが、この額についても、前認定の諸事実のほか本件における一切の事情を総合して判断し、一ヶ月三、三平方米当り九〇円に改めるのが相当であると認める。

(三)  従って、附随の処分として、共同賃借人たる相手方らより申立人に対し各自金二二六万八〇〇〇円の給付をするよう命じ、賃料額を一ヶ月三、三平方米当り九〇円に増額することとして(但し、計算の便宜のため、右賃料増額の時期はこの裁判確定の日の属する月の翌月分からとする)、主文二、三項記載のとおり決定する。

(裁判官 渋川満)

<以下省略>

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